【小説】八つ墓村|感想レビュー

横溝正史は超遅咲きの作家で、かの有名な『犬神家の一族』でブレイクした時にはすでに齢70を過ぎていたとのこと。

その『犬神家の一族』とならぶ横溝正史の代表作が今回紹介する『八つ墓村』。両作は現代ホラーの金字塔なんて呼ばれたりもする有名な作品なのですが、普段からホラー・ミステリー好きを公言しているにも関わらず、実は今まで一度も手にしたことがありませんでした。

理由のひとつとして『中途半端に古い』っていうのもあって、なんていうかイメージとしては完全に青空文庫の人。 乱歩も読めるんだから横溝だって時間の問題でしょ?なんて、けしからん考えもあったわけなんですが、完全に見当はずれでした。どうやら横溝作品が公開可能になるのは、現在の著作権法では2032年になるとのこと。

『ぐぬぬっ』と悔しさを滲ませていたいたところ、タイミングよくKindle Unimitedで配信されたので、よいきっかけだと思い手に取ってみました。

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八つ墓村の概要

戦国の頃、三千両の黄金を携えた八人の武者がこの村に落ちのびた。だが、欲に目の眩んだ村人たちは八人を惨殺。その後、不祥の怪異があい次ぎ、以来この村は“八つ墓村”と呼ばれるようになったという――。大正×年、落人襲撃の首謀者田治見庄左衛門の子孫、要蔵が突然発狂、三十二人の村人を虐殺し、行方不明となる。そして二十数年、謎の連続殺人事件が再びこの村を襲った……。現代ホラー小説の原点ともいうべき、シリーズ最高傑作!!

実は『八つ墓村』の内容って全く知らなかったんですよね。

これだけ有名な作品なので、どこかでだいたいのあらすじやら結末やらに触れたことがあっても不思議ではないのですが、本当に内容については1mmも知りませんでした。 もちろん映画だとかテレビドラマでも見たことがなく。

だから自分が八つ墓村に持ち得ている情報は、アイキャッチにもなっているやたらサイコな表紙だけ。怖いですよね。日本刀を右手に持った鎧武者と背後に迫るヤバイばばあ。明らかにまともじゃない。

これだけでもぞくぞくするんですが、タイトルも秀逸。

語呂感が良すぎる。

『八つ墓村』って。

もう完全に名前勝ち。作品に触れたことのある無しに関わらず、一度聞いたら絶対に忘れられないインパクトがある。他にも横溝作品はタイトルに魅力的なものが多くて『犬神家の一族』はもちろん『悪魔の手毬唄』だとかもそう。もうタイトルだけで気になって仕方がない。

で、本作『八つ墓村』の表紙とタイトルから内容を推測すると、まあ間違いなく”閉鎖された山村で古い因習の土着信仰に囚われた血なまぐさい惨劇が起きる”パターンのやつ。これは確実。バレバレだよ。横溝氏。

閉鎖された村ッ!血なまぐさい惨劇ッ!名探偵金田一耕助の活躍ッ!

期待感しかない。

現代的な古典作品

まず最初に感じたのは圧倒的な読みやすさ。なんとなくこのくらいの時期(昭和初期)の作品って、文章に時代性を帯びててとっつきにくい印象があったのですが、文体が意外とライトで現代的。

ミステリーとしては時代的に古典の部類に入る作品なんだろうけど、そんなことを感じさせないくらいすらすら読めてしまう。女性描写もきっと当時としては先進的なんだろうなぁって、ぼやっと思えるくらい今っぽい。自立してるというか、積極的というか。

ただし時代描写の迫力は、当時を生きた作家だからこそ感じられる臨場感があって非常に生々しい。平成生まれが書物で読み漁った知識で描写したものとは違う、圧倒的な“当時の今”としての空気感を纏っています。

とはいえ、個人的に古典作品との向き合い方って常々難しいと感じていて、日々作品の質が上がっている現代作品と比較して、やっぱり古臭さは気になるんじゃないの?とか、執筆された時代性を考慮して読むべきなのか?みたいな迷いもあって、イマイチどう楽しめば良いのか図りかねる部分があって。

しかし、『八つ墓村』はそんな思惑を抜きにしても十分に面白かった! 数十年前に書かれたものとは思えないくらのクオリティの高さで、現代でも十分通用するシロモノ。さすが名著と呼ばれるだけのことはあると思った次第。

いくつかのミスマッチ

けど、思ってたのとは違う。

確かに面白い。

面白いんだけど、なんか思ってたのとは違う気がする。

目的が分からない見立て殺人の不気味さだとか、村民同士の諍いや田舎特有の土地の権力者の存在、怪しさしかない双子のババアだとか、役者がいい感じで揃っててホラー・ミステリーとしての土台は十分に整っているんだけど、何よりの問題はこれっぽちも怖くないということ。

間違いなくドキドキもワクワクもあるんだけど、それは全然ホラーとしてのものじゃないんですよね。イメージと違うっていうのは別に悪い意味でも良い意味でもないのだけれど、一応ホラー的な怖さを求めて本書を手に取ったものだから、“怖くない”っていうのはちょっとツライなあと。

原因は表紙とタイトルから想像する内容とのミスマッチ。

腕組んで頭にタオル巻いてて筆っぽい字が書いてある看板のラーメン屋に入ったのに、出てきたのは透き通った黄金色の鶏ガラベースの無化調塩ラーメンだったときのような戸惑い。

絶対、二郎系だろと思わせておいての背反。

女たらしの主人公

まず主人公の辰弥。

こいつが曲者。辰弥は訳あって八つ墓村へやってくることになるのだけど、まあモテる。やたらモテる。なぜそんなにもモテるのか?

それはもう主人公だからとしか説明のしようがない。ここまで主人公としての特権を最大限に享受しているのはエロゲのオレか辰弥くらいなものだろう。

とにかく頭の中は女のことでいっぱい。 母さんって言ってみたり、姉さんって言ってみたり、美也子さんって言ってみたり、「典ちゃんが自分のこと愛してるのは知ってるけど、顔がかわいくないなあ (意訳) 」みたいなゲスなことを考えてみたり。

と思いきや、「やっぱ典ちゃん好き!」なんてイチャついてみたり。

人死んでるんだけど。

さらには目の前で典子とのイチャつきを見せ付けておきながら、どうして姉さんは怒ってるんだろう?なんて呑気なことを言いやがりますからね。この男は。 鈍感を通り越してただの無神経ですよ。

事件よりも何よりも女。どんな時でも頭の片隅には女のこと。そんなもんだから人が死んでも一応一通りの反応は示すもののどこか他人事。

ちょいちょい挟まれるお惚気を目にするたび、ライトノベルを読んでいるような錯覚(読んだことはない)に陥って、いったい自分は今何の本を読んでいるのかのか分からなくなる事態にたびたび遭遇する。

迷探偵

名探偵といえば金田一、金田一といえば名探偵。もう全国民が金田一と聞けば『探偵』という職業を連想するほど探偵のパイオニア。しかし彼がどのような活躍をもってそのような称号を得るようになったのかは、恥ずかしながら存じ上げていなかった。

だから、こちらとしても初めての横溝作品なんでね。しかも金田一耕助シリーズとあって、探偵そのものの名を冠した作品。なぜ金田一が名探偵と呼ばれるのか、きっとその理由みたいなものを垣間見れることをできるはず!と期待したのだけれど。

…。

完全に空気。

彼がいることによって進展したものはもしかしたら一つもなかったような気がする。ただただ他の傍観者と同じようにそこにいるだけ。唯一成し遂げたことと言えば酢の物を調べたことと「〇〇はすでに死んでるぞ」っていうことを自信なさげに当てたこと、道に迷わないロープ術を披露したくらい。たぶん。

しかもたちが悪いことには、「どこが名探偵なんだ」って口汚く罵ろうにも「この事件における僕は完全なゴートだった。私という人間が居なくても自然に事件は終息した」みたいなことをサラッと言ってのけますからね。彼は。

そんな殊勝な態度を取られたら、こちらとしても振り上げたこぶしを下すしかない。

ただ、彼を『本当に名探偵なのか?』という猜疑心を抱いたことで、他の作品も読まざるを得なくなったのは事実。これは横溝氏の思惑通りなのか?

や、八つ墓村…関係ないのぉぉおおお?

タイトルの八つ墓村っていうのも、物語にほぼ関係してこないのもビックリ。

まあ確かに事件の舞台ではあるから、タイトルとして冠するのはギリありと言わざるを得ない。しかしもっとこう何というか、村名の由来になった凄惨な事件が残した禍根が、その末裔だったり子孫だったりが祟りとか呪いに近いような形で蘇って村に災禍をもたらす…みたいな、そういうのを想像していたんだけど、事件の発端としては全く関わってこない。

八つ墓村という村名や事件の関りは、由来になった事件で被害者が命からがに隠した財宝が村のどこかにあるのかも?っていう程度のものでしかなく。

だから犯人の動機も過去の事件は一切関係なしで、恨みでも復讐でも呪いでもなく、ただただ私情慕情がらみ。鎧武者の活躍を待ちわびてたのに…。

総評

誤解なきよう言っておくと、間違いなく八つ墓村は面白い作品です。

ただ自分の求めているものとは違ったというだけで、作品自体に瑕疵はありません。しかし表紙とタイトルが誤解を招くような気がしなくもないのは、思い過ごしではないと思っているけど。

これが「殺人鬼の息子の俺が故郷に帰ったらナゼかハーレムだった件」なんてタイトルだったら、こんなミスマッチが起きることはなかったのにな、とは感じてしまう。

最後まで読んでみるとわかるのですが八つ墓村という物語は、辰弥(主人公)の冒険譚なんですよね。 金田一シリーズとは銘打ってはいるものの、実質的にこれは紛れもない辰弥の物語。

八つ墓村を舞台に繰り広げられる、恋アリ、涙アリ、冒険アリの冒険恋愛活劇!ホラーの皮を被ったエンタメ小説。それが『八つ墓村』の正体。表紙とタイトルに惑わされぬようご注意を。

で、結局表紙のババアは誰なんだ?

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