ウツボカズラの甘い息│レビュー

本が好きなので、せっかくならブックレビューでも始めようかと思ったのですが、一向に筆が進みません。

文才がないことを恨んでも仕方がないので、身の丈に合った内容で書くような気持ちで記していこうと思います。

概要

家事と育児に追われる高村文絵はある日、中学時代の同級生、加奈子に再会。彼女から化粧品販売ビジネスに誘われ、大金と生き甲斐を手にしたが、鎌倉で起きた殺人事件の容疑者として突然逮捕されてしまう。無実を訴える文絵だが、鍵を握る加奈子が姿を消し、更に詐欺容疑まで重なって……。全ては文絵の虚言か企み虚言か企みか? 戦慄の犯罪小説。

この作品を手にとった理由はKindleのセールで安かったから。本当はこういう買い方は賢くないって分かっているんだけれど止められません。 

とはいっても、数あるセール品から選ぶのにはそれなりの理由もあるわけで、1番の理由はタイトルにひかれたからなんですよね。

「ウツボカズラの甘い息」

つい声に出して読みたくなるような気持ちがいい語呂感。それに表紙も妖しくって素敵です。この漢字の”妖しい”を使いたくなるような魅惑的なアートワークにもビンビンきてます。

ちなみに著者の作品に触れるのは今作がはじめて。

映画化もされた「孤狼の血」なんかの雰囲気を見聞きする限り、女性作家にしてはというと語弊があるかもしれないけれど、どうやらハードボイルドな作風が特徴のようです。

女性心理描写のうまさ

まず最初に感じたのは、女性の心理描写のうまさ。

本作におけるテーマを”女性の欲望”だと勝手に決めつけているのですが、ストーリーの中心人物となる文絵は「お金」と「美」という欲望に、ある出会いをきっかけに取り憑かれていきます。

特売品を買い漁りオシャレや美容とは程遠い毎日を送る自分に嫌気が差し、「罠かもしれない」という疑念を払拭しきれぬまま甘い蜜を吸ってしまい…。

ごく平凡な主婦が欲望に絡め取られるように、非現実的な誘惑に没頭していく様が丁寧に描かれていて、非常にリアリティを感じました。

文絵の心情が手に取るように伝わってくる感じ、機微っていうんですかね?こういうの。そういう部分を表すのがすごく自然で抜群にウマい作家さんだなあと。

女性の繊細で情緒的で感情的で複雑な心情(褒め言葉)は、自分には一生分からない自信がありますので、なおさら。

また、前半部分のとある場面では、文絵にとっていつもと変わらない日常が描かれているのだけれど、どこか現実感のないチグハグな場面が登場します。しかしその違和感が終盤に明かされる伏線になっていて、違和感を違和感として留めておく絶妙なバランスだったのだと気づかされるのはすっかり種明かしされた後。

にわかには信じ難い事実なのですが、我々の日常にも夢と現実の区別がつかなくなる瞬間があるように、そういった非常にあいまいな残像を説得力を持って言語化するのはきっと簡単ではないはず。

詳しくはネタバレになるので触れることはできませんが、このパートの違和感は絶対に女性じゃなきゃ書けない部分だと感じました。

継ぎ接ぎのキャラクター設定

女性の内面描写が優れているのに対し、どこかで見たようなありきたりなキャラクターが多く、なんだかステレオタイプに陥っているのは残念に感じたところ。

事件を担当する刑事の秦は絵に書いたような堅物刑事で、徹底した現場主義。警察官としての使命が強く、それ故大切な家族も犠牲にしてしまった過去を持つ影のある人物です。

事件解決へ向けて真摯に捜査に向き合い口数も少く朴訥な印象だけれど、犯人を許さないという熱い気持ちを内に秘めた熱血漢なのだけど…。

こういう設定、なんだかちょっと手垢か付きすぎてるというか、既視感がありますよね。

ハードボイルドあるあるみたいな。

他人に対する値踏みが早いところとか、そういうのも安直に感じて、あまり共感できないキャラクターように感じました。

秦とペアを組む巡査の菜月も同じく。

女性だからと軽く見られる警察組織に対して憤りを感じ、そんな状況を好転させたい一心で職務に取組む自立した精神の持ち主…っていう、良く言えば分かりやすく、悪くいえばありがちな設定で、誰もが目を見張る美貌の持ち主っていうのも深夜アニメみたいでちょっとね。

事件の鍵を握る女優帽を深くかぶったサングラスの女なんてもう、まんま2時間サスペンス。

全体的に登場人物が寄せ集めのパッチワークのようで、どこがで見たことがあるようなキャラばかり。

文絵の内面がよく描かれているだけにアンバランスに感じました。

交互に展開する文絵パートと警察パート

まあ登場人物はアレなんですけど、ストーリー自体は引き込まれるものがありました。

見どころはたくさんあって

  • マルチ紛いの化粧品販売ビジネスにのめり込む文絵の顛末
  • 文絵の解離性障害が事件に与える影響
  • サングラスをかけた謎の女の存在(加奈子じゃないの?)
  • 文絵のビジネスパートナーの章吾の死と真犯人の正体

などなど。

これだけの要素があるとついストーリーが複雑になりがちなんだけど、そこは構成の妙。文絵パートと事件を追う警察パートが交互に入れ替わって進んでいく形なので、膨らんでいくストーリーの状況を整理しながら読み進めることができました。

場面転換も適度に謎を残しつつなタイミングなので、続きが気になる憎い感じがよいです。

個人的に面白いなと感じたのは、単純に事件を追うものと追われるものだけではなく、登場人物の性質が両パートで対比のようになっているところ。

文絵パートの登場人物が欲に囚われた人間の醜さを描いているものに対し、秦と菜月が登場する警察パートは、人としての良心や信念が描かれていること。

相反するものが交互に入れ替わることで、善と悪のコントラストがより際立って感じられるのは感情移入の手助けになりました。

予定調和な終盤とラストの既視感

物語の終盤、別々に進行していた2つのパートが交わることで、文絵に関するある事実が明らかになります。

ここで前述した違和感の正体が判明するのですが、割と衝撃的な内容で個人的な今作のハイライト部分。

目にした時は

「どうなっちゃうの?」

って前のめりにならざるを得ないくらい引き込まれたのですが、その後は展開はちょっと肩透かし。

ひとつの糸口をきっかけに事件は核心へと向かうわけなのてすが、これといった意外性もなくご都合主義的な展開であっさり真相に辿り着いてしまうあっけなさ。

謎が解ける時なんて言うのは得てしてそんなものかもしれませんが、それにしたってとんとん拍子すぎるなあと。

警察の捜査自体にも予断がすぎるよね、とも感じる箇所もあったり、結局は”刑事の勘”なんていうシックスセンス的なもので事態が進展して行くのもなんだかなあと。

点と点がそのまま一直線で繋がってしまったような感じで、長さの割に肝心なラストがやや駆け足な所も気になりました。

事件の真相もほぼ犯人の独白で概要をなぞるだけの形式は説明的すぎるかと。

あとラストの部分が○車に似ていることがどうしても気になって。作品を読んだことがある人なら、その類似性を意識するはず。

決して短くはないページ数を読んできて、二番煎じのような結末は不満が残りました。

まとめ

簡潔に言えば、女性って怖い!っていう話。

女性の心理描写はさすがだけれど、一部を除いてあまり目新しさもなくて、過去の作品をいろいろ継ぎ接ぎしたようなイマイチ食い足りない作品っていうのが、本作に対する個人的な感想です。

途中までは悪くなかったけれど、やっぱりラストの展開の二番煎じな感じは否めないかと。

本作の評価は類似した有名作を読んだことがあるかどうかで、大きく変わってくると思います。